日本の音楽市場の変化(音楽ソフト・有料音楽配信・音楽ライブ)
昨日は「興行チケットの一次流通と二次流通の市場規模」について書きましたが、もっと音楽市場の全体を見たいなと思い、以前から私のTwitterのTLで度々話題となっていた柴那典さん著の「ヒットの崩壊」を読んでみました。これがもうめちゃくちゃおもしろい。
「ヒット曲」についての考察で、オリコン、ビルボード、JOYSOUNDと各種ランキングの比較があるのですが、思わず上から順に部屋でひとりで熱唱し、読了に予想外に時間がかかってしまいました(笑)
音楽好きな人はもちろん、テレビ業界やソーシャルメディアに関心のある人、世の中に何かを広める仕事をしている人など、多くの人が楽しめる内容かと思います。オススメ!
ということで、音楽市場全体の数字について調べてみました。
日本は世界2位の音楽市場で、世界の音楽売上の約1/5以上の市場規模を占めています。
しかし、最近ではその市場規模は急速に縮小しています。IFPI(国際レコード産業連盟)が2013年に発表した「DIGITAL MUSIC REPORT」によると、
- 日本の2013年の売上は、前年36億1000万ドル(約3667億円)から16.6%減少し30億1000万ドル(約3057億円)
- 世界の2013年の売上は、前年156億ドルから3.9%減少し150億ドル(約1兆5240億円)
- 日本を除いた場合、2013年の世界の音楽売上は0.1%の微減!
と、世界でも日本の音楽市場だけが極端に縮小していることがわかります。
(世界規模の音楽売上をまとめた年次レポートをIFPIが公開......|ALL DIGITAL MUSIC)
日本の音楽市場を詳しく見ていきましょう。
まずは音楽ソフトの種類別生産額から。
史上最もCDが売れた1998年に比べ、2015年の音楽ソフト生産額は約40%。6075億円から2545億円へと、この17年で約3500億円の市場が失われました。
CDレンタル店数も、1989年の6213件をピークに減少し続けています。
音楽ソフト(フィジカル音楽)に対して、デジタル音楽の市場はどうでしょうか。
2007年までは「音楽ソフトが有料音楽配信にシェアを奪われている」と説明できましたが、それ以後は音楽ソフトの売上が急速に減少し、音楽市場全体の売上が減少傾向にあります。
しかし、2010年から有料音楽配信の売上も減少に転じています。この背景には、フィーチャーフォン(従来型携帯電話)からスマートフォンへのトレンドの移り変わりに伴う、利用者の有料音楽との付き合い方の激変があります。
有料音楽配信の内訳を詳しく見てみましょう。
2005年はMaster RingtonesやRingback Tonesの売上が多くを占めています。
- Master Ringtones:フィーチャーフォンで音楽をダウンロードできるサービス。サビなど楽曲の一部を切り出したもので、「着うた」や「着メロ」があります。2002年12月にKDDI/auが開始、2003年12月にVodafone(現SoftBank)、2004年12月にdocomoで開始されました。(「着うたフル」はシングルトラックに分類される。)
- Ringback Tones:電話で相手に聞かせる呼び出し音を歌などに変えられるもの。2003年9月にdocomoが「メロディーコール」を、2005年2月にKDDI/auが「EZ待ちうた」(のちに「待ちうた」に改称)、2009年8月にSoftBankが開始しています。
その後、一曲丸ごと配信可能な「着うたフル」のサービスが2004年に開始、2008年には着うたフルの高音質版「着うたフルプラス」が開始されました。2010年まで急速にシェアを伸ばしていますね。
2010年頃からフィーチャーフォンの「モバイル市場」は減少に転じ、「PC・スマートフォン市場」が伸びています。
シングルトラックやアルバムの売上の伸びには、iTunesStoreに代表されるポータルサイトの拡大が貢献。
2013年頃からはサブスクリプション(定額制の聴き放題)が急速に伸びています。せっかくなので日本におけるサブスクリプションサービスも紹介しておきます。
- AWA:2015年5月開始。サイバーエージェントとエイベックス・デジタルが共同出資。
- LINE MUSIC:2015年6月開始。LINE、エイベックス・デジタル、ソニー・ミュージックエンターテインメント、ユニバーサル・ミュージックが共同出資。
- Apple Music:2015年7月開始。Appleが提供。
- Google Play Music:2015年9月開始。Googleが提供。
- Rakuten Music:2016年8月開始。楽天が提供。
- Spotify:2016年9月開始。ソニー、ユニバーサル、ワーナーの音楽業界「世界三代メジャー」と契約を結んでいる。
PC・スマートフォン市場は拡大を続けているとはいえ、2008年から2010年にかけてのモバイル市場の売上ピーク時と比べると、その35%ほどの市場規模にとどまっています。
ここまで、減少傾向にある日本の音楽市場について見てきましたが、音楽ライブに目を向けてみると、また違った状況が見えてきます。
2011年頃から音楽ライブ市場が急速に伸び始め、2014年には音楽ソフトの市場規模を追い抜いています。いまや音源よりも興行収益、CDよりもライブで稼ぐ時代になっているのです。
音楽ソフト・有料音楽配信ともに減少傾向にあるものの、音楽ライブ市場に引っ張られる形で音楽市場全体も拡大傾向にあります。
(音楽ソフト 種類別生産金額推移|日本レコード協会)
(エンタテインメント市場における 「電子チケット」の現状レポート|ぴあ株式会社)
(2015年のライブ・エンタテインメント市場|ぴあ株式会社)
インターネットの普及により音楽は簡単にコピーできるようになり、YouTubeなどで無料で音楽と映像を楽しむことが可能になりました。スマホさえあれば、いつでもどこでも好きな音楽を聴くことができます。
そのような時代だからこそ、「その時間、その場所」でしか味わえない「体験」の価値が高まっている。「モノの所有」から「体験の消費」へとは、近年あらゆる業界でいわれていることですね。
音楽ライブについても詳しくまとめたいのですが、ひとまずライブ市場についての説明はこちらの記事に譲ります。