anboo's blog

浅草のスタートアップでプロダクトマネジメントとデータ分析

不確実性の中で成果を出し続けるために意識したいこと

はじめに

データアナリストとしてスタートアップに転職して、もう少しで1年が経とうとしている。
最初の数ヶ月は何をやっていたかといえば、データ基盤やモニタリング体制の整備、データを扱う文化の醸成などにコミットしていた。

最近ではAnalyticsに加えて、CS(カスタマーサクセス)・CX(カスタマーエクスペリエンス)などのチームを持ちながら、横断プロジェクトとして次の収益の柱にすべく新規営業商材をつくったりサービスのコアの価値担保の仕組みを考えたりと、もはや職種が定義できないが刺激的な毎日を過ごしている。

自分が未経験の領域に次々と役割が広がり、何もわからない状態の中でとにかく物事を前に進めていくことが求められる中で、不確実性の中で成果を出し続けるために必要なこととして、最近意識的になったことを書いておく。

 

イシューを解く3つの方法

前提として、ビジネス上のイシューは図のように上から下へと分解されていく。
組織上のレイヤーが高いほど扱うIssueの粒度は大きく、不確実性は高くなる。

組織が小さくレイヤーが少ないスタートアップにおいては、必然的に各個人が扱うイシューの粒度は大きくなる。(それがスタートアップという環境の一番の魅力といっても過言ではないだろう)

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創造的な仕事をするというのはつまり、大きなイシューを解くこと = 適切に分解することだ。

イシューをサブイシュー,タスクへと分解していくことを「地図の獲得」と呼ぶとすると、その獲得方法は大きく3つに分類できる。①考える、②調べる、③人に聞く、だ。

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どの獲得方法を取るかは個人の好みによるが、イシューに対する自分の知識・経験の大小によって、最適なアプローチは変わってくる。

自分の経験がある領域であれば、小一時間も考えれば大枠の設計はできる。わからないことがあっても、何をどう調べれば自分の必要な情報にアクセスできるかなんとなく見えている。
一方で、知識も経験も乏しい領域では、いくら考えても調べても時間ばかりが過ぎていき、一向にまとまらないいことが多い。それが人と話すと嘘みたいに、これだ!と思う答えにたどり着いたりする。

冒頭で触れたように、スタートアップにおいては未知のイシューが次から次へと湧いて出てくる。
そのような環境において、状況に応じて3つのアプローチを適切に選択できる人間は、地図を獲得するまでのスピード、そしてその地図に対する自信が大きく違うように思う。

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打率思考から打席思考へ

不確実性の中で成果を出すためには、このスピードと自信が特に重要であると最近思うようになった。

不確実性とは文字通り”不確か"である、つまり確実な正解というものが存在しない世界である。そこでヒットを打つには、打率を上げにいくよりも、打席に立つ回数を増やした方が戦略の筋としては良い。
”正解”がない中で打率を上げるには限界があるからだ。*1

ヒット数 = 打席に立つ回数(無制限だが時間との勝負) × 打率(3割が限界. コントロールが困難)

一方で打席数は時間との勝負なので、打席数の最大化においてはスピードが何よりも正だ。
つまり、地図の獲得をいかに速くして、実行に移せるかが肝になる。

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そして、この実行フェーズで重要なのが「明確さ」だ。

イシューが大きくなると、実行フェーズでは組織の多くの人が関わることが多い。
人を動かすには、明確な指示が必要だ。曖昧な指示しか出せなければ、人は動かず、動いても意図通りの検証はできない。

ではその明確さを作るのは何か?それが地図に対する「自信」だと思う。

不確実性の中での地図の獲得は、あらゆる可能性の中からほとんどを捨てて一つを選び取る意思決定の連続だ。
それは当然、難易度が高く心理的負荷も高い。自分の経験がない領域ならなおさら。
だからこそ、人に聞くのが一番の近道だ。自分の中に知見がないなら、人の知見を借りればいい。

・社内メンバーで1時間議論を尽くしたのだから、まずはこの方針でいってみよう
・現場メンバーから一通り話は聞いたから、大筋は外してないだろう
・この分野に詳しいAさんに聞いたのだから、それでダメなら仕方ない

こうやって、キメを作る。限られた情報の中で、不確実性を許容し、正確さよりも明確さを選ぶ。
誰しも経験があると思うが、自分1人で考えるよりも、人と話すほうが遥かにこのキメを作りやすい。

 

ただこのやり方は、真面目でお勉強ができる人ほど抵抗があるのではないかと思う。
「与えられた課題は自分の頭で答えを出さなきゃ!人に見せるにはしっかり準備して完璧にしなきゃ!」そういう思い込みが無意識下であるのではないだろうか。
私たち日本人は、学校教育でそう叩き込まれてきたのだから、無理もない。

しかし、創造的な仕事をする上で、私たちが責任を負っているのは成果に対してであって、完璧なプロセスに対してではない。人に頼ろうが、何度失敗しようが、早く成果を出したものが絶対的にすごいし、偉い。
気持ち悪いかもしれないが、仕方ないと諦めるしかない。そういうゲームルールになっているのだ。

スタートアップという不確実性の中で、未知の大きなイシューに取り組み、成果を出し続けたいと望むなら、打率思考から打席思考に意識的にスイッチする必要がある。

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仕事がうまく進まないと「自分の能力が足りないからだ…もっと勉強しなきゃ…」などと考えがちだ。
その結果、思考力を高めようとおもむろにロジカルシンキング本を読み始めたり、新しい分野の本を買い漁りインプット学習に走ったりする。しかし、不確実性の高いイシューに向き合う上で、それが目の前のイシューの解決に”すぐに”結びつくことは少ない。*2

「どうしよう、こんなイシューどうやって解けばいいんだ?全くわからない!」
そう感じたときは、安易に思考やお勉強に逃げて時間を浪費せずに、恥を忍んで人に頼ることを肝に銘じておきたい。(打席思考が染み付けば恥に思うこともなくなるだろうが、私はまだまだそこに至れていないので、自戒を込めて。)

 

おまけ: おすすめ書籍の紹介

パトリック・レンシオー二の本に、経営者が意思決定で陥る罠の1つとして「判断ミスは許されない」という思い込みがあると紹介されている。
意訳すると以下のようになるが、今回の話と通ずるところが多い。

リーダーが「判断ミスは許されない」という誘惑に負けると、正確さと「正しさ」を求めて決定を遅らせ、部下に曖昧な指示しか出せず、会社の機能がマヒしてしまう。

リーダーは、正確さよりも明確さを重んじるべきである。
自分の決定を確実に正しいものにしたいと望んでも、完璧な情報のない不確実な世界ではそれは不可能である。もしもっと情報が手に入り、自分の決定が間違っていたことがわかったら、計画を変え、理由を説明すればいい。失うのは自分のプライドだけである。

常にさらなる情報を待っているより、断固とした行動を取るほうが、部下たちは多くのことを学べるのを忘れてはならない。

その対処として、パトリックは「弱みを見せること」「生産的対立が起きるチームづくりをすること」などをあげていて、経営者という立場になっても「人に聞く = 部下から正しい情報を吸い上げる」ことができるようにするにはどうすれば良いか解説している。
孤独な意思決定の重圧に悩んでいる経営者やマネージャーには、是非おすすめしたい本だ。

パトリック・レンシオー二の本は他にも4冊ほど読んだのだが、どれも健全な組織を作る上で欠かせないことがシンプルかつ丁寧に書かれている。 あまりに平易に書かれているので当たり前のように感じるが、まさに言うは易く行うは難しで、書かれていることを全てやりきるのは相当に難しい。

ドクターズプライムでは、まだまだ途上ではあるものの、パトリックの教えになかなか忠実に組織づくりに取り組んでいるので、折を見てその話もまとめたい。

 

*1:One Way Doorの意思決定についてはこの限りではない。打席に立てる回数が制限されるので、時間をかけて熟考し可能な限り打率を上げるアプローチが適している。

*2:インプット学習が不要だとは言っていない。中長期的に足腰を鍛えるためには必要な努力で、むしろ恒常的にやるべきである。